「音楽理論」と聞くと、難しい専門用語や五線譜、コード、スケールなどをたくさん覚えなければならないものだと思うかもしれません。
楽器を弾いている人の中にも、
「演奏はできるけれど、理論は分からない」
「曲は感覚で作っているけれど、コードやスケールの説明になると自信がない」
という人はいるでしょう。
また、
「ギターをもっとカッコよく弾きたい」
「アドリブで自由に演奏してみたい」
「自分で曲を作ってみたい」
と思って調べていくうちに、「音楽理論」という言葉にたどり着いた人もいるかもしれません。
ですが、音楽理論を学ぶ目的は、専門用語をたくさん暗記することではありません。
自分が聴いている音楽、演奏している音、作っている曲の中で、何が起きているのかを整理し、理解しやすくすることが大きな目的です。
この講座では、音楽理論を単なる知識として覚えるのではなく、実際の音や楽器、DTMと結びつけながら学んでいきます。
まずこの記事では、個別の理論へ入る前に「そもそも音楽理論とは何なのか」「なぜ学ぶのか」から考えてみましょう。
音楽理論とは何か?
音楽理論という言葉を聞いても、最初は「具体的に何をするものなのか」が分かりにくいかもしれません。
そこでまずは、難しい専門用語を覚える前に、音楽理論が音楽の中でどのような役割を持っているのかから見ていきましょう。
音楽理論の役割が分かれば、このあと学んでいく音名や音程、コード、スケールなどを「なぜ学ぶのか」も理解しやすくなります。
音楽の中で起きていることを整理するための考え方
音楽の中では、さまざまなことが同時に起きています。
音の高さが変わり、リズムが生まれ、複数の音が重なることで響きが作られます。メロディが進み、曲全体にも始まりから終わりまでの流れがあります。
音楽理論は、こうした音・リズム・響き・メロディ・ハーモニー・楽曲構成などの関係を、言葉や記号、考え方によって整理するためのものです。
長い音楽の歴史の中で使われてきた音の関係や仕組みを整理し、「なぜこのように聞こえるのか」「どのような関係になっているのか」を説明しやすい形にしたもの、と考えることもできます。
初心者向けにイメージするなら、音楽の「地図」のようなものだと考えると分かりやすいかもしれません。
地図がなくても道を歩くことはできます。
いつも通っている道なら、地図を見なくても目的地まで行けるでしょう。
一方で地図があれば、
「今どこにいるのか」
「この道はどこにつながっているのか」
「別の場所へ行くにはどの道を選べばよいのか」
を考えやすくなります。
音楽理論も、それに近い役割を持っています。
もちろん、「音楽理論=地図」というのは音楽理論そのものの定義ではなく、役割をイメージするための例えです。
大切なのは、音楽理論を音楽を難しくするためのものではなく、音楽の中で起きていることを整理し、次に何ができるのかを考えるためのものとして捉えることです。
この講座で扱う音楽理論の範囲
「音楽理論」と一口にいっても、世界中のあらゆる音楽を一つの理論だけで説明できるわけではありません。
この講座では主に、西洋の調性音楽を土台として、ポップスやロックの演奏・作曲、DTMでの音楽制作などにつながる基礎的な音楽理論を扱います。
これから音名や音程、リズム、スケール、キー、コードなどを順番に学んでいきますが、「これが世界中のすべての音楽に共通する唯一のルールだ」という意味ではありません。
まずは、ポップスやロックの演奏・作曲、DTMでの音楽制作などを理解するうえで使いやすい基礎から学んでいく、と考えてください。
初心者向けの音楽理論が難しく感じることもある
音楽理論を勉強しようと思い、「初心者向け」と書かれた本やサイト、動画を見たのに、それでも難しく感じた経験がある人もいるでしょう。
これは、音楽理論そのものが初心者には理解できないからとは限りません。
説明の途中で、
「音程」
「キー」
「スケール」
「コード」
といった、まだ知らない用語が当然のように使われていることがあります。
一つ分からない言葉があり、その説明を読むと、そこにも知らない言葉が出てくる。
そうなると、音楽を勉強しているというより、音楽用語を調べ続けているような状態になってしまいます。
実は、誰でも知っている「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」ですら、掘り下げていけば音名と階名の違いや、C・D・E・F・G・A・Bといった表し方などにつながっていきます。
「ドレミくらい知っている」と思っていたところから、急に話が深くなっていくわけです。
だからこそ、この講座では最初からすべてを説明しようとはしません。
今の段階で何を理解すれば次へ進めるのかを意識しながら、一つずつ学んでいきます。
分からない言葉を分からない言葉で説明しない。
これも、この講座で大切にしていきたいことです。
音楽理論は「守らなければならない絶対的なルール」ではない
音楽理論を学ぶと、
「理論に合っている音が正解で、外れている音は間違いなのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、音楽理論は**「この音を使いなさい」「この音は使ってはいけない」と決めるための絶対的なルールではありません。**
よく使われる音の組み合わせや進み方と違っていても、それだけで「間違い」とは言えません。
音楽理論は、鳴っている音の関係を整理し、「今、どんなことが起きているのか」を考えるためのものです。
理論を知らなくても演奏や作曲はできる
正式な音楽理論を勉強した経験がなくても、楽器を演奏したり、歌ったり、曲を作ったりすることはできます。
特に長く音楽を聴いたり演奏したりしている人は、理論用語を知らなくても、
「こっちの音の方が自然に聞こえる」
「次はこの辺りへ行きそうだ」
「この響きは落ち着く」
といった感覚を身につけている場合があります。
言葉では説明できなくても、耳や演奏経験を通して音楽の中にある規則性を感じ取っているわけです。
ですから、
「音楽理論を知らない=音楽について何も分かっていない」
ではありません。
感覚だけで作ったメロディやコード進行が、あとから音楽理論を使って説明できることもあります。
音楽理論を学ぶことは、それまで自分がやってきた音楽を否定することではありません。
感覚と理論は対立しない
音楽を聴いたり作ったりするときには、まず感覚があります。
「かっこいい」
「切ない」
「ここで落ち着く感じがする」
「次はこの音へ進みたい」
こうした感覚そのものは、とても大切です。
音楽理論は、その感覚に対して「それは間違っている」と判定するためのものではありません。
むしろ、
「なぜ自分はこう感じたのだろう?」
「今鳴っている音には、どんな関係があるのだろう?」
「同じような響きを別の場面でも使えるだろうか?」
と考えるための材料になります。
感覚か理論か、どちらか一方を選ぶ必要はありません。
感じたものを理論で整理し、もう一度音に戻して確かめる。
この行き来ができるようになることが、音楽理論を実際の音楽へ生かすうえで大切です。
音楽理論を学ぶとオリジナリティがなくなる?
「音楽理論を勉強すると、理論通りの曲しか作れなくなり、個性がなくなるのではないか」
と心配する人もいます。
しかし、音楽理論そのものがオリジナリティを奪うわけではありません。
理論は、
「このように曲を作らなければならない」
と命令するものではなく、
「今はこういうことが起きている」
「ほかにはこういう選択肢もある」
と考えるための道具です。
同じコードやスケールを知っていても、それをどのようなメロディにするのか、どの楽器で演奏するのか、どんな音色にするのかは人によって違います。
音楽理論は感性の代わりになるものではありません。
むしろ、自分の感覚を形にするために使える選択肢を増やすものと考えた方が分かりやすいでしょう。
音楽理論を学ぶと何が変わるのか?
では、理論を知らなくても音楽ができるのであれば、なぜ音楽理論を学ぶのでしょうか。
音楽理論を学んだからといって、自動的に良い曲が書けるようになるわけではありません。
知識が増えれば、必ず創造力が上がるというものでもありません。
音楽理論を学ぶことで、自分が感覚でやっていたことを整理し、次にどうするかを考えるための材料を増やすことができます。
ギタリストであれば、ピックやアンプ、エフェクターを使って自分の音を作ります。
それらは「こう使わなければならない」と音楽を縛るものではなく、自分が出したい音を形にするための道具です。
音楽理論も、それに少し似ています。
音楽そのものではなく、自分が演奏したいこと、作りたいもの、表現したいものを形にするために使える道具の一つです。
感覚でやっていたことを言葉にして、もう一度使えるようにする
ここは料理に例えると分かりやすいかもしれません。
冷蔵庫にあった材料を使い、分量もあまり気にせず料理を作ってみたところ、思いがけずとてもおいしくできたとします。
もちろん、それだけでも何も問題はありません。
しかし、
「何をどのくらい使ったのか」
「どんな順番で調理したのか」
「火加減や時間はどうだったのか」
をまったく覚えていなければ、次に同じ料理を作ろうとしても、うまく再現できないかもしれません。
そこで、使った材料や分量、手順を整理してレシピとして残しておけば、もう一度似た料理を作りやすくなります。
さらに、
「この材料を別のものに変えてみよう」
「この味付けを少し変えてみよう」
と、元の料理を応用することもできます。
音楽理論も、この考え方に少し似ています。
もちろん、音楽理論そのものが料理のレシピという意味ではありません。
音楽理論は「この通りに作れば良い曲になる」という手順書ではないからです。
ただ、感覚や偶然から生まれたものを整理し、もう一度使ったり、別の形へ応用したりしやすくするという点では、うまくできた料理の作り方を整理しておくことに似ています。
作曲や演奏でも、
「偶然弾いた音がすごく良かった」
「なんとなく作ったメロディが気に入った」
ということがあります。
その瞬間に良い音が生まれたとしても、「なぜそうなったのか」がまったく分からなければ、別の曲でも同じ考え方を使いたいと思ったときに再現するのが難しくなります。
そこで音楽理論を使って、
「この音とこの音には、こういう関係がある」
「この場面では、こういう響きになっている」
と整理できれば、そこで起きていたことを別の場面でも利用しやすくなります。
これは「理論通りに曲を作る」という意味ではありません。
感覚で見つけたものに名前や関係性を与えて、もう一度使える形にしていくということです。
偶然生まれたものを偶然のままで終わらせず、自分の音楽の選択肢として残しておく。
そのための道具として音楽理論を使えます。
料理でも、レシピをたくさん知っているからといって、必ずおいしい料理が作れるわけではありません。
同じように、音楽理論をたくさん知っているからといって、必ず良い曲が作れるわけでもありません。
理論は完成品の良し悪しを保証するものではなく、自分が何をしているのかを理解し、再現や応用をしやすくするための材料なのです。
演奏・作曲・分析・共有の判断材料になる
音楽理論は作曲だけに使うものでもありません。
演奏している曲について、
「自分はいま何を弾いているのか」
「この部分はどのような関係でできているのか」
と考える材料にもなります。
楽譜を演奏するときも、書かれている音をそのまま再生するだけでなく、コードやフレーズ、曲の構造を理解することで、演奏について考える材料を増やすことができます。
作曲やアレンジでは、一つしか方法が分からない状態から、
「こういう方法も考えられる」
と選択肢を考える助けになります。
曲を聴く場合にも、単に「この部分が好き」で終わるのではなく、
「なぜ自分はここが好きなのだろう?」
と音楽の構造から考えやすくなります。
さらに、他の演奏者と一緒に音楽をするときには、音名やキー、コード、音程などの共通する言葉を知っていることで、自分が伝えたいことを説明しやすくなります。
耳コピやアドリブについても、今後学ぶ理論と実際に聞こえる音を結びつけることで、考えるための材料を増やすことができます。
ただし、理論を覚えれば必ず耳コピが速くなる、必ずアドリブが上手くなる、という意味ではありません。
理論は答えを自動的に出してくれるものではなく、音楽について考えるための判断材料と選択肢を増やすものと考えてください。
音楽理論では何を学ぶのか?
この講座では、これから少しずつ音楽理論の基礎を学んでいきます。
扱う内容には、たとえば次のようなものがあります。
- 音名
- 音程
- リズム
- 拍子
- スケール
- キー
- コード
- メロディ
- ハーモニー
- 楽曲構成
今の段階で、これらの意味をすべて覚える必要はありません。
音楽理論というと「コードとスケールの勉強」という印象を持つ人もいるかもしれませんが、それだけではありません。
音の名前や音同士の関係、時間の流れ、複数の音が作る響き、メロディ、曲全体の構成など、音楽の中にあるさまざまな関係を順番に見ていきます。
先ほど触れた「ドレミ」も、その入口です。
私たちが何気なく使っている「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ」には、音の名前として使う場合と、音の位置関係を表すために使う場合があります。
さらにC・D・E・F・G・A・Bといった表し方も登場します。
ここまで一度に説明すると、それだけで一つの記事になってしまいます。
ですから今は、
「身近なドレミからでも、音楽理論の世界は広がっていく」
くらいに考えておけば十分です。
それぞれの詳しい内容は、今後の記事で一つずつ取り上げていきます。
ここでは、
「こうしたものを使って音楽の仕組みを整理していくんだ」
と分かれば十分です。
音楽理論は「実際の音」と一緒に学ぶ
音楽理論は、言葉だけ暗記しても実際の音楽と結びつかなければ使いにくいものです。
用語の意味を説明できても、その音を聴いたときに何のことか分からない。
逆に、耳では違いが分かっていても、それを何と呼ぶのか説明できない。
どちらか一方だけでは、理論と実際の音が離れてしまいます。
この講座では、その二つをできるだけ結びつけながら学んでいきます。
なお、スマートフォンでも音を確認したり、音楽理論を学んだりすることはできます。
ただ、この講座では音の位置関係を見たり、実際に音を鳴らして比較したりすることが多いため、可能であればパソコンやタブレット、鍵盤楽器などを使うことをおすすめします。
スマートフォンだけで完結させようとすると、画面が小さいため、音の位置関係を見比べたり操作したりしにくい場面があります。
「名前から音」と「音から名前」を行き来する
新しい理論用語を覚えたら、その言葉だけを覚えて終わりにはしません。
実際にはどのような音なのかを聞いてみます。
そして逆に、実際に聞こえた音について、
「これは理論では何と呼ぶのだろう?」
と確認します。
名前から音へ進むだけではなく、音から名前へ戻る。
この両方向を行き来することで、理論と耳を結びつけていきます。
好きな曲を聴いているときにも、学んだことを探してみるとよいでしょう。
教科書の中だけにあった言葉が、実際の音楽の中で鳴っているものだと分かれば、音楽理論は一気に現実の音楽とつながってきます。
楽器やDAWで実際に確かめる
実際の音を確認する方法は一つではありません。
ギターやベースを弾いているなら、実際に指板上で音を鳴らして確認できます。
キーボードがあれば、鍵盤上で音の位置を見ながら聞くことができます。
DTMをしているなら、DAWのピアノロールを使って、音の高さや並び方を目で確認しながら聞くこともできます。
この講座ではテーマに応じて、
聴く・弾く・見る・作る
を組み合わせていきます。
理論を文章の中だけに置いておくのではなく、自分の楽器やDAW、普段聴いている曲までつなげていくためです。
楽譜が読めなくても音楽理論は学び始められる
「音楽理論を勉強するなら、まず楽譜を読めないといけないのでは?」
と思っている人もいるかもしれません。
しかし、音楽理論を学び始める段階で、最初から五線譜を完全に読める必要はありません。
楽譜を読む能力と、音楽の中にある音やリズム、コードなどの関係を理解することは同じものではないからです。
ギターやベースを弾いてきた人の中には、コードネームや指板上の形には慣れていても、五線譜にはあまり慣れていない人もいるでしょう。
DTMから音楽を始めた人なら、五線譜より先にピアノロールに慣れている場合もあります。
そうした状態からでも音楽理論の勉強は始められます。
ただし、これは「楽譜は必要ない」という意味ではありません。
楽譜をはじめとする記譜法は、音楽を記録したり整理したり、他の人と共有したりするための重要な道具です。
この講座では、理論を学ぶ前にすべての読譜能力を身につけなければならないとは考えず、必要なものを必要な段階で学んでいきます。
「楽譜が苦手だから音楽理論は無理だ」と考える必要はありません。
音楽理論は「感覚を使える形にする」ために学ぶ
音楽を始めるとき、最初からすべてを理論で考えている人ばかりではありません。
まず音を聞き、
「この音が好きだ」
「このメロディが気持ちいい」
「この響きを使いたい」
と感じるところから始まることも多いでしょう。
その感覚を捨てて、理論へ置き換える必要はありません。
この講座で目指すのは、
感覚で音楽を感じる
↓
理論で何が起きているのか整理する
↓
実際の音で確かめる
↓
演奏・作曲・アレンジなどで使ってみる
という流れです。
音楽理論は、音楽を「正解」と「間違い」に分けるためだけのものではありません。
自分がなんとなく感じていたことを整理し、自分でも説明できるようにし、必要ならもう一度使えるようにする。
ギタリストにとってのピックやエフェクター、DTMerにとってのDAWとまったく同じものではありませんが、「音楽を作るために使う道具」という意味では共通するところがあります。
音楽理論とは、感覚でやっていたことを言葉にし、自分の音楽に使える形へ変えていくための道具でもあります。
これから音名、音程、リズム、スケール、キー、コードなどを一つずつ学んでいきます。
そのときも、用語だけを暗記するのではなく、必ず実際の音と結びつけて考えていきましょう。
理論が実際の音とつながったとき、音楽理論は単なる知識ではなく、自分で音楽を聴き、演奏し、作るための道具になっていきます。
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